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2013年4月 9日 (火)

The Amazing Uemura Collection~Music Jacket Galleryの源

※今日のマーブロは気の弱い方、集合体恐怖症の方はご遠慮ください。

マーシャル・ブログの人気カテゴリーに『Music Jacket Gallery』があった。
この新マーブロでも同範疇の記事を一度アップしたが、メインとしていた内容は大田区にある老舗印刷会社、金羊社の4階に常設されてるレコード・ジャケット展の展示物を解説したものであった。

本来の目的は、絶滅の危機に瀕しているレコードやCDのジャケットの魅力を見直そう…というもので、ごく私的なディスク・ガイドといった趣にもかかわらず、幸運にも数多くの音楽愛好家のご支持を頂戴し、某四大新聞社のうちのひとつの解説員の方までご愛読されていると聞いて浮足立ったものであった。

展示が変わる度に膨大な量の記事を制作したが、残念ながらある事情により今は見ることができなくなってしまった。
この記事を制作する作業は、自分でもお気入りの仕事のひとつではあったが、大変な労苦を伴うものであった。
LPを解説する際、まずは記憶に頼って文章を組み立ててみるのだが、30年以上前の出来事が多いゆえに、存外に思い違いが大きかったりして、少しでも正確を期すために調査にかなりの時間を要してしまうのだ。
また、事実内容を確認しているうちに興味深い新事実に突き当り、それを深く調べているとアッという間に時間が過ぎてしまい、他のことができなくなってしまったりするのである。
しかも、これらの作業にあたる際にはどうしても大量の英文を読み解く必要があり、余計に時間がかかるのだ。

上のような理由により、昨年10月から始めたこのマーシャル・ブログではどうしても時間が作れず、このカテゴリーに手を出せなかった。
しかし、そこは「お気に入りの仕事」のこと、いつかは再開してやろうと3ケ月に1度模様替えをするMusic Jacket Galleryの展示の取材だけは敢行し続け素材を確保しておいた。

そして、いよいよ再開する決心をしたのだ。正確に言えばShige Blogから引っ越しして来ようというのだ。

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これにはいくつか理由があった。

まずひとつは、「あのコーナー楽しみにしていたのに、もう終わっちゃったんですか?」と何人かのマーブロ読者に尋ねられたこと。
コレはうれしかった!
さらに、20年のキャリアを持つ音楽専門誌がここ数日の間に2誌も休刊となったこと。
私はこの2誌を店頭ですら広げたことがないが、コレにより音楽産業の加速度的な衰退を感じたこと。そして、最近ある本を読んで思うところがあったこと。
その本は「どうしてこんなに日本の音楽がダメになっちゃったのよ~」的な問題を多角的に分析している(つもりの)モノで、正直ダメになっているとされる音楽が私にとってどうでもいい類のものであるのと、根本的な論旨が自分と相容れない至極商業的(音楽愛好家が分析した内容とは思えないということ)なモノであったため、結果的にその内容に与できるものではなかった。
「それなら読まなきゃい~じゃね~か!」と言うこともできるが、一か所だけ頷くことができる箇所を「あとがき」の中に見つけた。
これほど「あとがき」が重要な本も珍しい。
それは…音楽や映画でも何でも感動できるものを下の世代に引き継げ…というのだ。
もしかして、この本の著者はマーブロを読んでいるんじゃないの?と思うぐらい私が何年も言い続けていることを正確に活字にしていたのだ。(この人も相当前から言いたかったんだとは思うけどね)
 
バカシゲのいつものヤツがまた始まった…と思われることでしょうが、また一念発起してLPやレコード・ジャケットの魅力を借り、私なりに音楽の魅力を伝承する作業を勝手に引き継ぐことにした。
誰かがこの伝承作業をしなくては…。
で、今日はそのイントロとしてMusic Jacket Galleryに展示物を提供している日本屈指のコレクター、植村和紀さんのことを書くことにした。
金羊社のギャラリーに展示されるアイテムはすべて植村さんの私物なのだ。

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写真向かって左が植村和紀さん。右は金羊社の奥平周一さん。
奥平さんは優れた技術を持つカメラマンだ。

植村さんは以前マーブロでも紹介したレコード協会が協賛する『Music Jacket Gallery』の中心人物でもある。

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さすがに日本屈指のコレクター、雑誌に取り上げられることも珍しくない。

この記事の写真に見えるLP棚は植村さんが「蔵」と呼んでいるLP専用の倉庫に設置されているもの。
ここへ行ったことのある人は「蔵友(くらとも)」と呼ばれる。
私も何度もお誘いを頂戴しているのだが、東京から遠く離れているため、時間を割くことなかなかできず、残念ながら私はまだ「蔵友」にはなっていない。

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こちらはレコード・コレクターズ誌(株式会社ミュージック・マガジン刊)の人気コーナー「レコード・コレクター紳士録」。1999年5月号(XTC特集)にもご登場されている。

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今日、ここにご紹介するのは、都内の「蔵」。
CDを中心に保管している第2の蔵だ。

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都内のマンションの一室の6畳間。
壁一面に広がっている物体はすべて「CD」である。

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全部CD!

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CDはお気に入りのミュージシャンを除き、ほぼレコード会社別に収納されている。

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植村さんのスゴイところは、すべてのCDを聴いていて(当たり前か?)、何がどこにあるかを完全に把握していることだ。
しかも、だいたいの盤の内容が頭に入っていて、「これどんな感じですか?」的な質問をすると、当意即妙にその答えを聞かせてくれるのだ。

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あのね~、この壁一面の棚のCDは前後2列になってんのよ。
つまり見た目の倍の数のCDがこの棚に収蔵されているということ。

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ね?後列の下段もちゃんとホンモノのCDが詰まってる。もうこの時点でほとんど「悪い冗談」です。
私も大概好きですけどね~、なんかね~、ここまで来るともはや羨ましくない。
だって、何でもあるんだもん。
それじゃ面白くないじゃん!…でもやっぱ羨ましいか…。

それでもまだまだ買い続けるのが植村さんのコレクター道。
ジャンルはほとんどがロック&ポップスだ。
コレ、もしここにジャズが本格的に加わったら大惨事に発展したことだろう。

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ところで、植村さんは収納に当たってスペースを省くために薄いソフトケースを使用している。
植村さんにすすめられて後に私も導入した。
何しろCDのケースの中身はほとんどが空気だからね。
サイズがコンパクトな分、LPよりおとなしいフリをしているが、実はガタイの比率からいえばLPより何倍も無駄にスペースを使っているのだ。
CDとスリーヴを取り出して下の写真のようにソフトケースに収めこむ。
下はわかりやすく2枚のソフトケースを使っているところ。

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こうしてソフトケースに収めると厚みは1/3になる。

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下はウチのCD棚。
もう気持ちいいぐらいスペースが縮む。
何せ体積が一気に1/3以下になっちゃうからね~。
私のコレクションはコレでたかだか5,000枚程度だけど、それでもソフトケースに替えた効果は絶大だった。
S0r4a0585一方、要らなくなったプラ・ケースの量たるや膨大なもので、何回にも分けてゴミ屋さんに持って行ってもらった。
そして、その重量!想像を絶しますよ。
1ケ1ケはもちろん大したことないのは当たり前なんだけど、それが3,000枚も4,000枚もになると凄まじい重さになる。
当然、木造の家にはかなり負担なのだ。
かさばるプラ・ケースを並べてその量を鑑賞して悦に浸るのも悪くないが、空気を鑑賞しているようなもんだからね。
将来コレクションを手放すつもりがなければ、この手のケースは大変に実用的だ。
下の空ケースはホンの一部。
記念に撮影しておいた。
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この量がすべてプラ・ケースに入っていたらどうなっていたか…オモシロイね~。
ひと部屋どころかマンション全部必要かもね。

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CD棚の上にはパンパンにボックス・セットが積み上げられている。

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ま、私もいくつか持っているけど、ちょ、ちょっとコレは…。

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ボックス・セットのコレクションは壮観だ。

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一体、何枚ぐらい同じ内容のCDがダブってるんだろう?

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植村さんのボックス・セットへの執着はすさまじく、「ボックス」という名がついていればすべて購入しているという。

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もう、これには山崎さんもビックリすることだろう!(註:ボックス=ハコね)

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ここは紙ジャケ・ゾーン。
…と、下段を見ると「5 in 1」の廉価盤のボックス・セットのコーナーが…。
こんなん買う必要ないのでは?…と他人事ながら心配になってきた。

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押入れに歩を進める。
開き戸を開けると…ドワッ!ボックス・セット!
しかし、キレイに収まってるな~。

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下段もCD。
コレ、押入れの全面だけではなくて、奥まで詰まってますからね。

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となりの引き戸の押入れの中は…CD!

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それとデジパックのような、ソフトケースに収納できないタイプのアイテムが山と積まれている。
そう、実はこのデジパックってクセモノでしてね、分解するわけにもいかないし、絶対的に厚みがあるし、見た目はいいけど収納の敵なのよ。

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カゴの中はどれもパンパンにつまっている。

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カゴの中がどうなっているかというと、こうなってる。もうこれだけで軽く100枚近くは入っている。

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まだビューパックに収めきれていないものもある。

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…と気になるのは枚数だよね。もう正確に数えるのは「数えるのが大好き同好会」に入っている学生のアルバイトでも雇わない限り無理。
そこで、ザっと植村さんにお見積りいただいた。

答えはこうだ。

●ソフトケースに入れ替え済みのものが27,000枚

●まだソフトケースに入れ替えていない状態のものが5,000枚

●デジパックや変形ケースなど入れ替え不可能なものが1,000枚

●紙ジャケットものが5,000枚

⇒その他のゴチョゴチョを加えると軽く40,000枚は超すという。

これに、前半で触れた「蔵」にLPが20,000枚。
しめて60,000枚!
ほぼ私のコレクションの10倍の量になるが、なんかもっとあるような気がするな~!
もっとも増殖中であることは言うだけヤボってもんだ。
 
引き戸の押入れの反対側も同じ。中には何が入っているのかな~…なんてもう思わない。
どうせCDだよ、CD!CDが入ってんだよ!

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植村さんのお気に入りは、まずはフランク・ザッパ。

何せ好きすぎてフランク・ザッパのCDを配給していた会社に転職しちゃったんだから。その甲斐あって1992年10月にLAのザッパの家に行っちゃった!
いいな、いいな、いいな、いいな、いいな、いいな、いいな、いいな、いいな、いいな、いいな、いいな、いいな、いいな~!
写真を見せてもらいましたけどね~。
もうこれは羨ましいとしか言いようがない!
 
それ以前は、1977年6月~1992年5月まで「オリコン」、つまり、「オリジナル・コンフィデンス」にお勤めしていらした。
まだ、LPレコード全盛期の頃のお話をうかがうと大変オモシロイ。

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そして、ジェスロ・タル。
植村さんはイアン・アンダーソンとホッケをつついた仲だというからスゴイ。
もうすぐ来日して『ジェラルド(Thick as a Brick)』を演るというから今頃楽しみで夜も眠れないのでは?

下は『Stand Up』のタペストリー。

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「bouree」関連のシングル盤。

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どこでこんなもん手に入れて来たんだか…タル初来日時(1972年)の時の記者会見のようすのカラー・ポジ。

それと、ホセ・フェリシアーノやSpiritがお好きとのことだ。

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オーディオ・セットは予想に反して徹底的に質素だ。

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プレイヤーの台の下をのぞいてみると…ゲゲッ、またボックス・セット!どうなっとんじゃ~!

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CDの他にも「CD屋さんグッズ」も!

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電車の前にくっついてる「とき」とか「雷鳥」とかいう看板を集める鉄道マニアと同じ感覚なのかな?

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オット!天袋をチェックするのを忘れていた!
ガラガラ…お、一句できた!

天袋 引いてビックリ またボックス

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部屋の上部の空間は横たえられたボックス・セットが占拠している。

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さて、場所を変えてリビングに移動する。
リビングの押入れを開けると…ボックス・セット!

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ちょっとボックス・セットで気になるアイテムを紹介しておく。
もちろん、ここで紹介するのは大海の一滴にも満たないもので、詳細は金羊社のギャラリーの展示で紹介していくことになる。

ジェフ・ベックのボックス・セット。

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オリジナル国内盤の帯つきの紙ジャケCDが収納されているが、「Jeff Beck」がスクリプト・ロゴ風になっていて、箱自体が1959のコンボ風になっているところがうれしい。1959のコンボは2159というモデル・ナンバーで実際には1962のようなトップ・マウント仕様だった。

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こちらはスティーヴ・ヴァイのボックス・セット。
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宝石箱のような意匠でピックまでついている!ちなみにイギリス人はピックのことを「プレクトラム」と呼ぶのをご存知か?

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こちらはフランスのジャズ・ロック・グループ、マグマのセット。

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豪華!

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リーダーでドラマーのクリスチャン・バンデがフィーチュアされている。

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エアロスミスの紙ジャケ・セット。珍しいのかどうかは知らないが、作りがしっかりしているナァ…と思って。

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リビングの押入れのもうひとつと戸を開けると…ボックス・セット!

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ここで目を惹くのはアルファベットを付した黄色いファイル群。

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これはDVDのファイル。DVDのケースこそ空気を保管しておくようなもので邪魔なことこの上ない。植村さんはCD同様、ケースからDVD本体とスリーブを取り出し、このファイルにアーティストのアルファベット順にファイルしているのだ。
DVDのスリーヴはCD用のソフトケースに入らないからね。

私が持っているDVDは古い映画がほとんどだが、すぐにこの方法をマネた。
空きケースの量といったら、これまたすさまじい体積と重量だった。
ま、この方式も1冊のファイルにDVDを入れすぎると団子みたいになってしまい、今度はファイル自体の収納に問題が出てくる。
結局、何でもそうだが、コレクションというのは「スペースとの戦い」でもあるのだ。

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これは紙ジャケやボックス・セットの特典でついてくるミニ帯のコレクション。

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ここまでいくともはや切手ですね。「帯趣味週間」。

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こちらはホンモノの「ブッチャー・カバー」とブートレッグ。
氏のお気に入りで、ブートレッグの方が音がいいそうだ。

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「ちょっと待って…」とキッチンに消えた植村さんが手にして戻ってきた。何を持って来られたのかというと…ボブ・ディランのLPジャケットをまとったチョコレート!

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押入れの中だけでなく冷蔵庫の中にまでコレクションが及んでいるとは!

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気が付いたときにはすでにもう夕方!結局、丸一日お邪魔して色々と拝見させていただいた。
実に楽しかった!

植村さんは、ご自身のコレクションを用いてレコードやCDの図書館を作るのを夢としていらっしゃるが、その夢の実現にも着実に接近している。少しそのあたりを尋ねてみると…
「昨年の秋に知り合った私設ビートルズ資料館の方と既に3回ほどお会いし、文化財として保存・伝承のため少しずつNPO法人化の話を進めています。
ひとりの力では絶対無理なので、何人かのコレクターのライブラリーを持ち寄り、都内の廃校になった学校を使ってレコード・ライブラリーを作ろうという計画です。
セキュリティ、管理、運営などのかかる経費を都や国に働きかけて予算化してもらおうと考えております。
時間のかかることですが、段階的に進めていこうと考えています」
…とのこと。
メチャクチャ楽しみだ!
キチンと現状と将来を見据えて事業計画を進めているところはさすがである。
来館者が絶えないさぞかし人気のスポットとなることであろう。
そして、例の「伝承作業」の大きな拠点となるに違いない。
この図書館ができたら何らかの形でMarshall Amplificationもお手伝いしたいナァ。
だって、収蔵される音楽作品の中にはマーシャルが使用されて制作されたものが当然無数にあろうし、音楽と楽器は車の両輪でもあるからね。

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最後に植村さんにマーシャルについて訊いてみた。

「ドラマーなので、特別ギター・アンプに対しての思い入れや知識もありませんが、シングル・ボックスでデザインされた(1959と1960AXを模したボックスにジミのヘンドリックスのシングル盤を収納したもの)ほど、「マーシャル=ジミヘン」という強い印象はあります。例のAC/DCのボックス(ホンモノのアンプがボックスに内蔵されている)もマーシャルでしたよね?
マーシャルはジャケットというより、ライノのヘヴィ・メタルというコンピのボックス(ゴールド・トップ、ブラウン・ボディのホンモノのボリューム・ノブを使った4枚組ボックス・セット)など、ボックスのパッケージの印象が強いですね」

マーシャルは「音の出る箱」ですからね。ボックス・セットの意匠にこれ以上の素材はないのです。
これからも植村コレクションの発展を期待してやまない。
そして、同時に本レポートをご愛顧願っています。

金羊社Music Jacket Galleryの詳しい情報はコチラ⇒Music Jacket Gallery常設展

<現在閲覧できる常設展レポート>

Shige Blog : 日本独自ジャケットLPコレクション <前編>

Shige Blog : 日本独自ジャケットLPコレクション <中編>

Shige Blog : 日本独自ジャケットLPコレクション <後編>

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「Music Jacket Gallery~SFジャケット展(仮)」につづく
 

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